02 Prey
角度を変えながら軽く唇を合わせて、面堂はあたるの後頭部に手をまわして引き寄せる。あたるの髪は少し癖があってやわらかい。指を髪の中にそっとうずめると、ふわふわした感触がして心地よかった。そのうちにあたるが唇を舐めてくるので、薄く開けてやるとすぐに舌がぬるりと滑りこんできた。くちゅくちゅと音を立てながら、お互いに舌を絡めあう。あたるの熱い体温が、触れるうちに面堂のものと溶け合って一つになり、頭の奥がじんと痺れてくる。
「ふ……」
続けるうちにだんだん腕から力が抜けて、手首が布団の上に落ちる。もう逃げる気なんかないのに、あたるはその手首を捕まえてぐっと押さえつけた。その重みに思わず背筋がぞくっとする。
一度こういうキスを始めると、あたるはなかなか面堂を放そうとしない。面堂があたるとのキスにすっかり夢中になって、他のことを全然考えられなくなる頃にようやく解放されるのが常だった。そして今回も例にもれず、あたるの舌を追いかけているうちに面堂は何もかも忘れてキスに夢中になっていた。
やがて、あたるの唇が離れていった。頭が熱でふわふわしたまま、キスが終わってしまった物足りなさにあたるを見上げる。するとあたるはなんとなく満足げに笑って、触れるだけのキスを最後に落とした。
あたるの手が浴衣の帯にかかり、結び目をほどいた。ゆるんだ帯は、しゅるりと衣擦れの音をさせて面堂の腰から抜き取られていく。面堂もあたるの帯に手をかけたが、ゆるめる前にあたるの手が重なってそれを止めた。
「いや、おれはいい」
「は? なぜ?」
「浴衣のままでやるのも、いつもと違っておもしろいかなと」
「どのへんが……?」
面堂は呆れたが、それ以上は何も言わなかった。浴衣のままで、という言葉に違わず、あたるは面堂から下着を剥いだだけでそれ以上脱がそうとしない。
自身も下着を脱いで横に蹴り飛ばすと、あたるは合わせから手のひらを滑り込ませた。指先が浴衣の中を優しく這いまわる。腰骨の突起に触れたり、へその周りを指先でくすぐったりしながら、あたるは手のひらを上に這わせて胸のあたりをさわり始めた。面堂の薄くついた胸筋を撫でさすり、やわやわと揉んでいく。
はじめの頃は、女でもないのだからそんなところ何も感じないのに、と呆れていたものだった。というか、「胸をさわりたいなら素直に女を抱けばいいだろう」と面と向かって言ったことも何度もあった。そしてその度にあたるは「そうだよな〜」と返したが、面堂を抱くことも胸をさわることも一向にやめようとしなかった。だから途中で面堂も諦めてしまって、きっとそのうち飽きるだろうと放っておくことにした。
そして面堂は、その致命的な判断ミスに対して今も苦い後悔を感じている。
あたるの手のひらが、大きく円を描くようにゆっくりと動いている。少しだけざらついたその手が表皮を滑る感覚、優しく揉む感触で、鈍い快感がじわりと生まれてきていた。それを感じる頃には、胸の中心にある小さな粒もじんと熱を帯びてくる。
そう、気がついたときにはもう遅かった。何も感じなかったはずの「そんなところ」は、いつの間にやら性的快感を拾うようになっていた。一度変えられてしまったものは元には戻らない。そして、一度覚えてしまった快感を忘れることも、面堂にはとてもできなかった。
だが、あたるはなかなか肝心の場所に触れようとしない。羽根のような軽さでするすると動く指先は度々そこに近付くのに、結局触れずに遠ざかっていく。あたるは何度もそれを繰り返した。かと思うと、周囲の色づいた薄桃色の輪を、中心には触れないようにしながら何度もくるくると円を描いてなぞった。そうして焦らされるほどに、面堂はそこに指が触れることを想像した。その瞬間身体を駆け抜けるはずの快感を、何度も何度も考えた。それだけで、かすかに息が乱れてくる。
指先が微かにそこを掠めるだけで、ぞく、と快感が背筋を抜ける。気持ちいい。でも、これではとても足りない。どうすればもっと気持ちよくなれるのか、面堂はもう引き返せないほどあたるに教え込まれてしまった。
「諸星……」
たまらずあたるの裾を引いて、面堂は瞳を潤ませながらあたるを見上げた。
「なんだよ、もう我慢できねーの?」
「だっ…て、こんなの……」
そこで居たたまれなくなって少し俯くと、あたるは「しょ〜がないな」と笑って面堂のまなじりにちゅっと口付けた。
あたるは胸にそっと顔を近づけていく。すっかり紅く色づいたそこが、さわられてもいないのにしっかりと芯を持っているのが見えて、面堂は頬を赤らめてさっと視線をそらした。今の反応はあたるに見られていない、と、思う。
あたるの吐息が、そこにかすかにかかる。たったそれだけのことなのに、心臓がとくんと高鳴って、どきどきしてきてしまう。やわらかな唇がついに触れたときには、待ちかねた刺激にぞくぞくっと全身に震えが走って、面堂は熱っぽい溜め息をこぼす。
あたるは左の乳首を唇の間に挟んで、やわやわと圧迫する。何度かそれを繰り返してから、ゆっくりと口の中に含んだ。
「あ……」
面堂の唇から小さな声が溢れた。濡れた熱に包まれる感覚にぴくんと肩が跳ねる。軽く吸い上げながら優しく舐められると、なんともいえないふわふわするような感覚がして気持ちがいい。あたるがそこに歯を立てたときには、鋭い刺激にびくっと背筋が跳ねてしまった。その間も指はもう片方をすりすりとなでさすり、時折つまみ上げて力を込め、左右に転がしては面堂からかすかな嬌声を引き出していく。
「ふっ…ぅ……」
時間が経つにつれ少しずつ息が上がり、身体がじわりと熱を帯びてくる。面堂はゆるく握った拳を唇に当て、声を抑えた。肩が不随意にぴくんぴくんと跳ねて、だんだんと意識が性感に侵食されてくる。たしかにあたるに乳首をさわられるのは気持ちいいのだが、これ以上続けられると面堂としては困ったことになりそうだった。
「ぅ、諸星……ちょっと、待て」
「ん?」
「その……このまま、だと……」
言葉を濁してそれを伝えると、あたるは顔を上げて面堂を見た。目が合ったところで、少し首を傾げてにっと笑う。そして何事もなかったように面堂の乳首を再び咥え、反対側も指で弄り始めた。
「おっ、おい、こら……っ」
面堂が止めようとしても、あたるは綺麗に無視して乳首を舐めている。その上、今までよりも明らかに責め方がいやらしくなった。ちゅう、と全体を強く吸われたかと思えば、ちろちろと舌で先の方をくすぐられる。指で責められている方も、人差指でとんとんと優しく先をたたかれたり、上から押しつぶすようにぎゅうっと押し込まれたり、こねくり回されたり、強弱をつけて好き勝手に弄られた。胸のうちで広がる性感がとくとくと脈打つ心臓に沁み込んでいく。鼓動のたびに、血と一緒に甘い快感が身体中に送り出されて、どこもかしこも気持ちよくなってきた。
やがて身体の中で快感が一気に高まり、意識がふわりと宙に浮かぶ。ぞくぞく、と悪寒にも似た強い快感が下腹部の奥に走った。
「んッ、あ、ぁ…ッ」
その感覚に面堂はびくっと身を固くし、それから力を抜いて腰から全身にじわじわと広がる甘い痺れを味わう。射精を伴わない絶頂の感覚は独特で、面堂はいつまでたってもそれに慣れることができずにいた。
あたるは面堂の反応を一通り眺めてから、へらりと笑いかけた。
「乳首でイくのきもちよかった?」
「そういう、ことを…っ、いちいち聞くなっ」
面堂の悪態を聞いて、あたるは楽しそうな忍び笑いをこぼす。そしてまた面堂の身体に触れ始めた。
「ん、ぅあ……」
する、と手のひらが身体の表面を滑るだけで弱い快感が神経を這い上り、面堂は思わず小さく喘いだ。
あたるはいつも面堂を一度イかせたあと、面堂の全身をゆるゆると愛撫しはじめる。至るところを撫でて、舐めて、キスをして、時々爪で引っかいたり噛んだりする。一つ一つはごく弱い刺激で大したことはないように感じるのだが、時間をかけて徐々に注がれていくぬるま湯のような快感は、いつのまにか抜け出せないほど深いものになっている。
あたるが首筋にキスを落としながら、吐息混じりにささやいた。
「面堂……このまま痕付けていい?」
あたるは返事を待たずにちゅっと皮膚の表面を軽く吸い上げた。面堂は慌ててあたるの肩を押す。
「きみはアホかっ? いいわけないだろうが、明日も泳ぐんだぞ!」
「だってさあ……」
「なんだ?」
「いや、なんでも」
小さくため息をついて、あたるは引き下がった。
それでもあたるは未練がましく鎖骨のあたりから耳にかけて舌でつうっと舐め上げ、軽く歯を立ててくる。そのまま首筋を何度もかぷかぷと甘噛みされて、面堂はたまらず目を瞑った。
「諸星、それ…くすぐったい……」
「これくらい、がまんしろよ」
おれも我慢してるんだから、とあたるは拗ねたような声で言う。時折熱い吐息がかかるせいで、だんだん変な気分になってくる。
面堂がこういうとき思い出すのは、大型のネコ科動物の狩りの映像だった。草原を疾駆し必死に逃げるトムソンガゼルの背に、チーターの鋭い爪がかかる。チーターはガゼルを引き倒し、しなやかな前肢で上から押さえ付けて首に噛みつくのだ。ガゼルは懸命にもがくが、抵抗むなしくやがて動かなくなる。そしてチーターはその肉を引き裂いて、ゆっくりと喰らい始める。
こちらが気を付けていなければ、この男は面堂から面堂自身さえ奪って喰らい尽くすつもりなのではないかと時々考えてしまう。そんなことあるはずもないのだが。浮ついてそこら中をふらふらしてばかりの人間が、一人にそこまで執着するとも思えない。するとしても相手は女性だろう。
あたるの犬歯がちくりと肌に刺さり、背筋がぞくっとする。面堂は気付かれないように小さく息を吐いた。本当に食べる気だろうか。わからない。あたるの考えていることは、面堂にはいつだってうまく理解できなかった。
しばらくしてあたるは満足したようで、面堂の首を食むのをやっとやめてくれた。そのあと布団のそばにあった鞄に腕を伸ばし中をごそごそすると、なにか小さな白い容器を取り出した。
「諸星、それは……?」
「ん? 日焼け止め」
言いながら、あたるは蓋を外して布団の外にぽいっと投げる。
「おれもこの旅行中やるとは思ってなかったから」
「……だったら、なぜ急に?」
「気が変わることくらい、あるだろ。だれでも」
「迷惑な話だな……」
「そーゆーこと言ってると、おれの手がとつぜん滑っちゃったりなんかしたりして……」
「え、うわっ」
冷たい感覚が胸に走った。さかさまになったチューブの先から白い液がとろとろと垂れている。
「何をするのだきさま!」
「何ってそりゃ、こ〜する」
飄々と言ってのけると、あたるは面堂の乳首に日焼け止めクリームを塗り込んで、優しく付け根から先端に向けてこすり上げてくる。クリームのせいで触られるときの摩擦抵抗がなくなり、さっきとは全然違う感覚だった。しかも困ったことにそのほうが気持ちいい。指先が往復するたびにぞわぞわと快感が生まれて、ぴくんぴくんと身体が小さく跳ねてしまう。
「ふ……」
「きもちよさそ。優しくスリスリするのとぎゅって痛くするの、どっちがいい?」
「なっ、なぜきさまにそんなことを答えにゃならんのだ…っ」
あたるは口の端を持ち上げて、からかいまじりに笑った。
「そーだよな、おまえどっちも好きだもんな〜」
「誰がそんなこと言った!」
「まぁ、強いて言うならココが?」
あたるは面堂の胸の先をぴんと指先で弾いた。途端にビクッと肩が跳ねる。
「っあ…!」
「おまえもたまにはカラダと同じくらい素直になったらど〜なのだ?」
「〜〜〜ッ…!」
頬がかあっと熱くなるのを感じる。結局何も言い返せないまま、面堂はふいっと顔を背けた。くすくすと笑う声がするのが腹立たしい。
くちくちとクリームを絡めながら、あたるは面堂の乳首をさわり続けた。触れるか触れないかの僅かな力で先のほうをつつくときもあれば、全体を指の腹で挟んでやや強めにひねるときもあった。
そして、悔しいがあたるの言うとおりだった。やさしくされても痛くされても、あたるに触られると何をされても気持ちがいい。
気がつけば再び身体の奥から疼くような痺れが生まれていた。このままだと、またこんな場所でイかされる。面堂はあたるの手首をつかんだ。
「っく…そこばかりしつこいぞ、いい加減に……っ」
「ま〜よいではないか、もっかい乳首でイっちゃえば」
「や、おい、ちょっと、やめ……、あっ」
両方とも指先に捕らわれ、少し強めにくりゅくりゅとこねくり回される。このやり方で責められると、面堂はどうしても我慢できなかった。
「ぁ…ぅああ…っ!」
またぞくぞくと強い快感が下腹の奥を走り抜けた。それからすぐに全身を甘く溶かすような痺れが広がっていく。さっきイかされたときの快感と絡み合って、甘い痺れは前回より更に深いものになっていた。
しかも、イった直後からあたるは乳首をぎゅっと絞り上げるように指を動かして圧迫する。それが追い打ちをかけ、快感を増幅させていた。
身体中を満たす気持ちよさのせいで頭の中に霧がかかったように思考がぼやけてきて、ぽーっとしながら必死に呼吸をととのえる。
「あ……面堂、その顔……もっと見せて」
「んっ……」
あたるがそう言って頬を撫でてくるので、面堂は目を瞑って小さく声を上げた。
「おまえのカラダって、えっちだよなあ」
「ふざけたこと、言ってるんじゃない……っ」
男相手に何言ってるんだこいつは、と呆れながら顔を背ける。
「面堂」
だが、あたるはすぐに面堂の頬に手を添えると前を向かせ、そのまま口付けた。
「ふ、ん、ん……っ」
熱い舌が入り込んで口内を這い回る感覚に背筋がぞくぞくし、面堂は無意識にあたるの身体に腕を回して抱き着いていた。吐息が重なり体温が溶け合って、思考はますます白く霞んでいく。
キスに夢中になっているうちに、不意に下半身の窄まりにぬめった感覚があって、ぴくりと太腿が跳ねた。人肌に温められた日焼け止めクリームがあたるの指先でぬるぬるとなすりつけられていく。何度か繰り返したあと、ぐっと力が込められ指先が中に沈んだ。
「っん!」
その瞬間びくっと腰が震えて、面堂は反射的にあたるの浴衣の背をぎゅっと握った。浴衣がなければ、背中に思い切り爪を立てていたかもしれない。
あたるは何度もクリームを足しては中に塗り込めるように指を差し入れていく。最初は中指だけが浅い所でゆっくりと出し入れされていたが、徐々にもっと深くまで指が差し込まれた。それが馴染んでくると、別の指も一緒にぬるりと入ってくる。体温で溶けたクリームが指の動きに合わせてくちゅくちゅと卑猥な音を立て始めていた。この音はきらいなのに、そして面堂がこの音を嫌がっているのをあたるもよく知っているのに、あたるはいつもわざと音が聞こえるように指を動かすのだった。
中を拡げるように穏やかに動いていた指が、その目的を果たすにつれて徐々に別の意図を持って内部を動き始めた。ある箇所だけをしきりに撫でさすり、指先でぐっと押し込んでくる。反射的にぴくっと腰が逃げると、あたるはそれを追いかけるようにして、また同じところを触り続けた。
「…ぁ……」
そうするうちにだんだんと触られているところがじんわりと熱くなってきて、あたるの指がそこに沈み込むたびに腰が跳ねた。こうなるころには、頭の中がふわふわして、ものをちゃんと考えるのが難しくなってくる。気持ちがいい。
くにくにと優しく揉まれているうちに、下腹部全体にぞわぞわした快感が生まれてきていた。その場所に、前立腺、という名前がついていることを、面堂は最近になって知った。
「あっ、うあ…!」
あたるの指がそこに触れ、そっと押し込むたびに腰が快感でとろけて、心臓が甘く疼く。とても気持ちが良くて、そこのことで頭が一杯になって、面堂は知らず知らずのうちに夢中で甘い声をこぼしていた。
すると、あたるが面堂の耳元に唇を寄せてささやいた。
「いいのか面堂、そんな声出しちゃって。それじゃ隣に聞こえるかも……」
「……っ!」
はっとして、慌てて口を手のひらで覆った。ふわふわと宙を彷徨っていた思考がいささか冷静さを取り戻し、胸にひやりと冷たいものを感じる。
中でまたあたるの指が動き始めた。口元を押さえたまま、面堂はぎゅっと目を瞑る。
「ンっ、んん……ッ」
「その調子」
あたるが面堂を見下ろしながらにっこり笑う。そして面堂はまた、あたるの愛撫を声を殺しながら受け入れ始めた。
部屋が静かだと、あたるの立てる音も自分のこぼす吐息も、やけに大きく響いて聞こえる。自分の口から意図せず喘ぎ声がこぼれるたびに面堂は内心怯えた。だが、必要以上に音や感覚を意識してしまっているせいなのか、面堂の身体は自分でも戸惑うほど敏感に快感を拾い始めていた。
あたるはそのことに目敏く気づいた。
「おまえ、こういうの好きだよな~……いつもよりずっと感じてるだろ?」
「…っ…、ちが、う……」
「聞かれちゃうと思って興奮してる? バレるの想像してぞくぞくしてんの?」
前立腺を中指と人差し指でぐにぐにと揉みしだきながら、あたるは面堂の耳にとびきり甘い声を注ぎ込んだ。
「へんたい」
「……あ」
その瞬間頭の中が真っ白になった。背筋を弓なりに反らしてびくびくと痙攣する。
「〜〜〜ッ、う、あ」
陰茎への直接の刺激がなかったこともあって、あたるにさんざん仕込まれた身体は通常の射精を行わなかった。勢い良く飛び出すことなく、精液はぱくぱくと開閉する鈴口からとろとろと流れ出ていく。そのせいで絶頂はすっぱりと終わることがなく、弱い快感が尾を引いていつまでも続いた。
「甘イキきもちいいな、面堂?」
「うるさいっしね……」
普段の面堂からはまず出ないストレートな暴言を受けて、あたるはおかしそうに忍び笑いをこぼした。
「も…いいから、はやく挿れろ……っ」
「あら終ちゃんってば、ずいぶん積極的だね〜」
「終ちゃん言うな気色わるいっ! こんなのさっさと終わらせたいだけだっ」
面堂が睨みつけても、あたるは微笑むばかりだった。その含みのある目つきに面堂は心底苛ついたが、あえて口をつぐむ。あたるにも言ったように、今は下手に言い争うより一刻も早く終わらせたかった。
男であれば通常は死ぬまで体験し得ない種類の快感ばかりを次から次へと執拗に引き出されて、明らかに身体がおかしくなっている。この状態を長引かせるのは絶対にまずいと男としての本能が告げていた。
「ゴム、この前の余りが一個あるだけだから……一回やったらおしまいな」
「あたりまえだ、バカっ。何回もやってたまるか!」
「この前はおまえが二回目ねだったくせに……」
「状況がぜんぜんちがうだろ〜が、状況が!」
あたるは小さなビニール包装をびっと破いて中身を取り出した。そして、慣れた手つきでそれを自身に取り付けていく。その間に、面堂もいい加減うっとうしくなってきていた浴衣を脱いだ。汗ばんだ素肌に空気が触れて、少しはましになる。
準備を終えたところで、あたるは面堂に後ろを向かせた。面堂の腰骨に人差指を引っ掛け、するりと撫でながら面堂にささやきかける。