03 Malfunction

 ふと気がつくと、体が柔らかいものに触れている。さらさらとした肌触りの布。ベッドのシーツだ。
「なんだ、起きたのか」
「諸星……」
「朝まで寝こけるつもりかと思ったのに」
 ベッドに腰掛けたままそう言うあたるの妙に残念そうな様子に嫌な予感がしてよくよく相手を見ると、あたるは右手に黒い水性ペンを持っていた。
 面堂はがばっと身を起こして頬に手を当てる。
「まさかきさま!」
「いやまだやってない。惜しいことしたな〜」
 ペンにキャップをしながらあたるはへらへらと笑っている。まったく油断も隙もあったものではない。
 それにしても、いつのまにベッドに移動していたのだろう。記憶がない。
 状況を考えると、可能性は一つしかないが……。
 面堂は半信半疑でたずねた。
「きみがぼくを……?」
「ほっといて風邪引かれちゃかなわんからな!」
 あたるはぽいっとベッドの外にペンを放る。人の部屋を散らかすなと言いたかったが、その前にあたるはギシッとベッドのスプリングを軋ませながらシーツの上に膝を乗せる。
 そのままぐっと迫られて気づいた。いつの間にか、そんな雰囲気でもなかったのに、追い詰められている。
「諸星、ぼくは……」 
「べんきょーがあるから、ってのはナシだぞ」
 先手を打たれてしまった。どきどきしながら目をそらす。
 今日はまさか来ると思っていなかったから、こういうことになるとも当然考えていなかった。この週末は、あたると触れ合うことはないだろうとさえ思っていた。
 今週は学校でも二人きりになる隙がほとんどなくて、木曜日の休み時間に触れるか触れないかのキスを一瞬交わしただけだった。それもかなりギリギリの状況で。あのときのあたるのマヌケづらだけが、今週の楽しみだと思っていたのだが。
 あたるは面堂の顔にすっと腕を伸ばした。
「あした何も予定ないんだろ?」
 あたるは面堂の顔の横に垂れた髪を弄びながら小さく微笑む。面堂は唇を尖らせるが、何も言わなかった。
 認めるのは癪だが、たしかに明日は何も予定がない。
 だから、こうしてあたるが面堂の背中に手を回して抱き寄せるのを止める理由は、残念ながら何もない。
 そっと身を乗り出したあたるが、面堂の唇を塞ぐ。何度も角度を変えながら、ちゅ、ちゅ、と湿った音を立てて唇が重なっていく。
 このままキスが深まっていくものと思っていたが、あたるはそこですっと唇を離した。
「もろぼし……?」
 面堂は首を傾げる。あたるはそれを見てニコッと笑い、面堂の目の前にすっと右手を持ってくると、パチンと指を鳴らした。その瞬間、なぜか背筋にゾクッと寒気が走ったが、面堂には理由がわからなかった。
「……なんの真似だ?」
 面堂が訝しげに目を細める。対するあたるはにこにこと楽しげに微笑んでいる。それを見て思った。どうも、なにか、嫌な予感がする……。
 あたるはいたずらっぽく面堂の鼻先をちょんとつついた。
「今のが開始の合図なのだ!」
「開始……って、何の?」
 あたるは女の子がするように両手の拳を顎に添えて、心底楽しそうににっこり笑った。
「嘘つくと、カラダの感度が上がるって暗示かけちゃった!」
「きっ、きさまは〜〜!!!」
 面堂はあたるを突き飛ばし、そのまま押し倒して刀を抜き放った。
「ころすっ!」
 あたるは首元に刀を突きつけられても、いつもどおりの暢気な笑みを浮かべて面堂を見上げている。
「いま殺しちゃっていいのかあ、面堂? 暗示、まだかかったままだぞ」
 ぴたっと面堂の動きが止まる。
 あたるは腹が立つほど楽しそうに微笑んだまま、するっと刀の表面を指でなぞった。
「おれをコロす前に、暗示の解き方、教えてほしくない?」
「ふんっ、そんなもの必要ない!」
 と言い放った瞬間、背筋にゾクリと寒気が走った。
「いっ……?」
「ほうほう。その様子じゃこれもガッツリ効いとるようだな」
「だれがっ!! こんなエセ催眠術、ちっとも効いてなんかいない!」
 だが面堂がそう言うとまた、ぞくぞく、と背筋が震えた。
「あ……っ」
 思わず刀を取り落としそうになる。あたるは身体を起こすと面堂の手に自分のものを重ねて、指をほどいて刀を奪い取った。
「か、かえせっ……」
「おっと!」
 慌てて手を伸ばすが、あたるはひょいっと腕を上げて面堂を避け、そのまま後ろに放った。
「こらっ、丁重に扱え! それは面堂家の由緒ある――」
「コタツネコに散々折られとるくせに何をいまさら!」
 あたるは面堂の肩を押して、そのまま面堂をぐいっと押し倒す。ぎし、とベッドのスプリングを軋ませながら、あたるは面堂にのしかかった。
「面堂」
「……あ」
 少し低い甘い声で名前を呼ばれた途端、ぞく、と身体が震えて手足からふっと力が抜けてしまった。あたるは面堂の顔の横に手をつくと、そっと身をかがめて面堂に口づけた。薄く開いた唇の隙間に、あたるの舌がぬるりと入り込んでくる。
「ん、んぅ……っ」
 それは、どういうわけかいつもよりも甘く感じた。
 あたるとするキスは、確かにいつも気持ちよかったが、こんなふうに全身の意識を持っていかれるほどの快感を覚えたことは今までなかった。すごく気持ちが良くて、面堂は無意識にあたるの首に腕を回して、後頭部をぐっと引き寄せる。
「っは……ぁ…」
 舌と舌が絡むたびに、ぞく、と甘い快感が背筋を走り抜け、腰を甘く疼かせた。あたるの手が面堂のシャツに伸び、キスをしながらボタンを一つ一つ外していく。
 首元が空いた時点で、あたるはそっと面堂から唇を離した。あたるの指が濡れた唇を撫で、そのままゆっくりと横に滑っていく。
「くあ……ッ」
 耳に触れられた途端、まるで敏感な性感帯をさわられたときのような鋭い快感が走って、びくっと肩が跳ねた。あたるはそれを見て楽しそうに微笑んで、面堂の頬を撫でる。
「ほんとによく効いとるよ〜だな〜」
 面堂はあくまで意地を張った。
「だっ、だから、そんなバカバカしいモン、ぼくにはまったく効いてなんかいない!」
 だがそう言った途端にまた、ぞくぞくっと体の奥が震えて、寒気に似た快感が皮膚を舐める。
「ふぁ……っん、本当になんなんだ、これ…ッ」
「だから、嘘つくと感度が……」
「そんなことあってたまるかっ!」
「実際上がってるだろ〜に! 往生際の悪いやっちゃな〜」
 あたるはぐっと面堂のシャツの首元を引いて開けると、そのまま唇を近づけていく。
「っう……」
 あたるの赤い舌先が、ゆっくりと鎖骨をなぞって舐める。そのあいだにもあたるの指は面堂のシャツのボタンを捕まえては、ホールに通して一つ一つ外していく。そして、あたるが鎖骨を軽くくわえて噛んだ。
「あ……っ」
 かぷかぷと、何度も甘噛みされる。あたるの歯が軽く皮膚に食い込むたびに、ぞわぞわと快感が体の表面を舐めていく。
 あたるは噛むのをやめて、ちゅ、と鎖骨のあたりを軽く吸った。あ、これはまずい、と面堂は少し焦るが、止める前に今度は強くぢゅうっと吸い上げられる。
「や…ッ」
 びく、と肩が跳ねて強い快感が背筋から腰に抜けた。それでも面堂は息を抑えて、あたるに文句を言った。
「きさまっ、またそこに痕をつけたな!」
「見える場所じゃね〜し、平気だろ」
「体育のとき、着替えがあるだろ〜がっ!」
「そのころには薄くなってるって」
 たしかに今日は金曜だし、体育のある月曜になる頃にはあまり見えなくなっているかもしれないが、そういう問題ではない。
 あたるは痕を付けた箇所にまたちゅっと軽いキスを落として、そこをゆっくりと舐め始める。鬱血の痕を舐められるのは苦手だった。どういうわけか、何もされていないところよりも敏感になっていて、舌先がそこをねぶるたびにぴくんぴくんと肩が跳ねてしまう。
「な〜面堂」
「ッは…、なんだ」
 あたるの唇がするっと滑って、首筋に触れる。
「ココにも痕、つけていい?」
「なっ、ばか言うな! 絶対お断りだっ!」
「この前だって、ばんそーこー付ければ隠せただろ?」
「たしかにそ〜だが、そう何度もこんな場所怪我してたらおかしいと……、っおい諸星!」
 がぶ、と少し強めに噛みつかれて、びくっと身体が跳ねた。前歯が首筋に食い込むたびに、ぞくぞくっと快感が走る。
「ぁ、もろぼし、いい加減に…ッ」
 そうこうするうちに、またあたるの唇が吸い付いて、ちりっと小さな痛みが走った。しまった。
「っん、よせと言ったのにきさまとゆ〜やつは…っ」
 だが、あたるはまったく話を聞いていない様子で、首筋についた赤い痕を見つめてうっとりと目を細める。
 そのまま痕にキスを落としてくるあたるに、面堂はため息をついた。なんだか知らないが、この男は首筋にキスマークをつけると興奮するらしく、面堂が何度止めても同じことを繰り返すのだった。
 いつのまにかシャツのボタンはすべて外されていた。今度はあたるの手がおなかの方に滑っていき、腰にたどり着くとズボンの紐を解いてゆるめた。面堂もあたるのズボンに手をかけて、ベルトを外して抜き取っていく。
 ふたりとも服をすべて脱ぎ去るまで長い時間はかからなかった。あたるはベッドのサイドテーブルの引き出しを開けると、ローションを取り出した。あたるはそのまま慣れた手付きで中の液体を手に取り、指に絡めていく。
 あたるの怪しい催眠術が本物かどうかはともかくとして、たしかに今日は身体の様子が明らかにおかしかった。いまだって、あたるの指がぬるぬるとした液体に包まれるのを見ただけで、身体の奥がきゅんとして、胸がどきどきしてしまう。
「面堂、あし、開いて」
「……ん」
 そろそろと、脚を開いていく。そうすると、嫌でも自分のものが上向いているのが目に入って、面堂は頬が熱くなるのを感じた。
 あたるが身を乗り出して、面堂の脚のあいだに割り入っていく。そして、あたるの指先がそこに触れた途端、腰がビクッと跳ねた。
「ッう、あ……ッ♡」
 反射的に腰が引けて、身体が刺激から逃れようとする。
「こら、逃げるなよ」
「ぁ、だ、だって……ッ」
 あたるは面堂の腰を掴んで押さえ込み、再びそこに触れる。ぬるっとした感触とともに指先が入口をなぞって、その感覚にぞくぞくと身体が震えた。
「ッふ、ぅ……っ♡」
 声を殺して快感に耐えている面堂を見下ろし、あたるは笑って言った。
「まだ指入れてないのに、さわられるのそんなに気持ちいい?」
「っ、そーいうわけじゃ…っ」
 咄嗟に否定しかけた途端、身体がまた熱くなってひくっと腰が跳ねてしまう。
「ぁ、くぅ……ッ♡」
「おまえのカラダはほんと正直だな〜、面堂?」
「んッ、んんぅ…ッ♡♡」
 ぬるぬると周囲で遊ぶようにそこをなぞり続けていた指先が、やがてぐっとそこに立てられる。
 にゅぷ、と、ぬるついた感覚と共にあたるの中指がそこに入り込んだ。あ、と面堂は思う。焦ったが、がまんしても耐えられない。快感が一気に上り詰めていく。
「ぅあ、〜〜〜…ッ♡♡」
 面堂の陰茎がピクピクッと震え、白い液体が軽く飛び出す。ぞくぞくと腰に甘い疼きが走って、それはゆっくりと全身に広がっていった。
「は……ぁう…♡」
「指入れただけで、もうイっちゃったのか?」
「……っ」
 面堂が言葉に詰まって視線をそらすと、あたるはくすっと笑って面堂の目尻に口づけた。
「えっちだな」
 あたるの指がゆるゆると中を行き来し始める。その動きはゆっくりとして穏やかだが、今の面堂にとってはそれすらも刺激が強く感じられた。
「んっ……」
 はぁ、と息をこぼし、面堂はなるべく下半身から力を抜いていく。ぬち、ぬち、と小さな音を立てて、指は浅いところを出たり入ったりし続けた。
 そのたびに、あたるの指先がある場所を掠めるが、あたるはなかなかそこをいじろうとしない。むしろわざとそこを避けるように指を動かしている節さえあった。
「……っふ…」
 やがて、指が一本増やされる。人差し指と中指が、なかを広げるようにぐっと開かれた瞬間、気持ちよさに面堂は身震いした。
 だが、相変わらずあたるは面堂の前立腺には触れなかった。指がそこをかすめ、優しく触れるたびに、胸がドキドキしてたまらない気持ちになる。そこを強く押し込まれた瞬間の気持ちよさを想像し、面堂はぎゅっとシーツを握った。
 指が三本に増えた。なかでバラバラに動かされ、少しずつ内部を広げていく指は、面堂が何度期待しても前立腺を押し上げることはない。
 ついに我慢できなくなって、面堂は口を開いた。
「もろぼし……」
「どーした?」
 あたるは小首を傾げ、面堂を見ながら含みのある笑みを浮かべる。
「してほしいことがあるなら、ちゃんと言ってくれないと……」
「〜〜っ…」
 こいつ……、と面堂は恨みがましくあたるを睨む。面堂が何を望んでいるのかなんて十分すぎるほどわかっているくせに、あたるは面堂が自分でそれを言うのを待っているのだ。
 だが、この男の思い通りに動くなんてこと、面堂のプライドが許さなかった。
「なにも問題はない…っ」
 あたるの目を見てきっぱり言い切ったが、その代償にひくっと身体が反応した。触られている内部を中心に、ぞくぞく……と快感が走り面堂は身をよじる。
「うあぁ……ッ♡♡」
「おっと」
 あたるが面堂の身体をすばやく押さえ、それからにやりと笑った。
「おまえはうそつきだな〜。ほんとは、ココ、さわってほしいんだろ?」
 中指の先が、ぬる、とそこに滑った瞬間、びくっと腰が跳ねた。
「あ…ッ♡」
「ココでイくのだいすきだもんな、おまえ」
「ん、んん……っ」
 くっと指先がそこを軽く押すだけで、ぞくぞくと背筋が震える。今までずっと焦らされていたせいで、少しいじられるだけで身体は嫌になるほど喜んでしまっていた。
「イかせてほしい?」
「……っ」
 面堂は言葉に詰まった。何を言っても、今は身体が妙な反応を示しそうで下手な返答ができない。
 すべてわかっていて、あたるは目を細めて微笑む。
「何も言わないってことは、まだイかなくてもへ〜きってことだよな」
「えっ…?」
「そろそろコッチもいじってほしいだろ?」
 そう言って、もう一方の手であたるは面堂の胸をするりと撫で上げる。指先が敏感な所に触れた瞬間、肩がぴくんと跳ねた。
「んッ……」
 すりすりと乳輪をなぞるようにそっと撫で回してから、あたるはそこに顔を近付ける。
「ぁ、諸星…?」
 まさか、と思っているうちに、吐息がかかる。あたるの唇が乳首を包み込み、ちゅうっと先端に吸い付いた。
「うあぁ……っ♡」
 背筋をのけぞらせながら、おもわず枕をぎゅうっと掴んでしまう。その間にもあたるはちゅうちゅうと乳首を吸い続け、舌先がちろちろと先端をなぶってくる。
「あ、あぁ〜〜…♡♡♡」
 このやり方で吸われるのは本当に苦手だった。固くなった乳首を舌で弾かれ、ぎゅーっと押しつぶされ、また舐められて、吸い上げられる。甘い甘い快感がぞわぞわと胸を這い、お腹の奥がキュンキュンしてたまらない。おまけに今はあたるの指が面堂の中を掻き回し、気持ちのいいところを優しく撫で上げてくる。
「っふ、うあっ、んぅ〜〜…ッ♡♡」
 甘い快感が身体中を這い回り、太ももがピクンピクンと跳ねている。きもちいい。身体がイくことを欲して、ドロドロした欲求が身体中の神経を支配する。でも、こんなところを舐められてイくなんて、と思うと、身体の欲求に素直に身を任せるわけにはいかなかった。
 ねっとりと乳首を舐め続けていたあたるが不意に舐めるのをやめ、軽く乳首を前歯でくわえる。 
「あ……ッ」
 そうなったら、次はどうなるかなんて考えなくてもわかる。面堂はあたるに咥えられた乳首を見下ろし、苦しいくらいに胸をドキドキさせながらその先を待った。
 そして、面堂が見守る先で、かり、とあたるが乳首を噛んだ。
「ぅあ〜〜〜…っ♡♡」
 びくっと上体が跳ねる。あたるはちらっと顔を上げて面堂を見上げると、目を細めてにっと笑った。
「おまえはほんと、痛いのが好きだよなあ」
「っ、べつにそんなの、好きなわけがない…っ」
 そういった瞬間、体の奥底からゾクゥ……と震えが走った。快感が一気に迫り上がってくる。
「あ、ぁ……ッ♡♡♡」
 そのままイきそうになるのを、ぎゅっとシーツを握ってなんとか堪えた。だが無理矢理にせき止めた快感は体の中をめぐっていて、甘い感覚がとくんとくんと鼓動とともに体をとろけさせていく。
「好きじゃないなら、なんでそんなにえっちな反応してんだよ、アホ」
「っあ、だめっ、いま動かさないで…っ!」
 あたるは面堂の乳首を口に含んでチュッと吸い上げながら、前立腺のあたりを中指と人差し指でくにくにと優しく揉みしだいた。
 快感が一気に上り詰めていく。
「ぁ、ああぁ〜〜……♡♡」
 一度こらえた分余計に気持ちよくなってしまって、ぞわぞわと身体を走り抜ける甘い快感がたまらなかった。
「っふ、ぅ……♡♡」
 かたかたと震える両手で口元を覆いながら、ぎゅっと目を瞑る。ポロッとこぼれた涙が頬を伝っていき、あたるがそれを舌先でそっと舐め取った。そして、中を掻き乱していたあたるの指がゆっくりと抜かれていく。
「めんどう」
 はあ、と息をこぼしながら、面堂は目を開ける。涙で潤んだ視界の中で、あたるは面堂を見下ろして微笑んでいた。
 指が抜かれたということは、つまりはそういうことだった。次の快感、指から与えられるそれとは比べ物にならない深い快感を思うだけで、身体がぞくっと震えてしまう。
 あたるはサイドテーブルから小さな正方形の袋を取り上げると、慣れた手付きで破いて中身を取り出す。そして、ぴんと屹立した自身の陰茎に、薄く色のついたゴムを被せていった。
「もろぼし……」
 面堂は、自身の太ももに手をかけて、ぐっと横に広げてみせる。あたるはにっこりして、面堂の方に身を乗り出し、ゆっくりと面堂の顔に腕を伸ばして……。
 そのまま、面堂の眼の前でぱちんと指を鳴らした。
 面堂は思わず固まった。
「……なんのまねだ?」
 そして、非常に強い既視感を覚えながら、面堂はあたるを見上げる。
「さーてなんだと思う?」
「き、きさま、まさかとは思うが……」
「そのまさかだとしたら〜?」
 あたるは上機嫌な声で、面堂の顔の横に片手をついてへらへらと笑った。
「こっ、今度は何をした……!?」
「ま〜、口で説明するより直接教えてやったほうが早いかもな……」
「うあっ…!」
 あたるは面堂の下腹部に手を伸ばして、張り詰めた面堂のものに触れた。反射的にびくっと腰が跳ねるが、あたるは面堂の過敏な反応は無視してそこを手のひらで包んでゆっくり上下にしごき始める。
「やっ、だめ、これイっ、ちゃ……」
 もともと弱りきった身体はすぐにそれを受け入れ、ぞくぞくと快感が高まっていく。
「うあ……ッ♡♡」
 奇妙なことが起こったのはそのときだった。際限なく高まっていった快感が、絶頂を前にして突然ふっとかき消されるように霧散してしまったのだ。
「っ……え…? なん、で、イけな……っ」
 戸惑いながら、面堂はあたるの手を見る。指先はまだそこを握ってゆっくりと撫でているのに、突如枷をはめられたように快感が頂点まで突き抜けなくなっていた。
「まっまさか、これ……!」
 面堂が青褪めていくのと正反対に、あたるは一層楽しげに笑みを深めた。
「そーゆーこと! おれがイっていいって言うまで、おまえは絶対イけないのだよ、面堂クン」
「そ……そんな……っ」
 あたるはなおもそこを穏やかに優しく撫でさすってくる。
 笑いを含んだ声が、耳元でささやく。
「どお、苦しい?」
「う、くぅ……♡♡」
「イきたかったら、素直に言えよ?」
「っだれが、きさまのおもいどおりなんかに……っ」
「痩せ我慢しちゃって、こんなになってるくせにな」
「ひッ、ふあ、うあぁ……っ♡♡」
 鈴口のあたりをぐりぐりと親指の腹で抉られ、面堂の身体がガクガクと震える。いつもなら面堂をイかせるためにあたるがする行動だった。だが今は、身体がひとりでに震えだすほど気持ちいいのに、イくことはできない。
「んッ、んん〜〜…ッ」
 本来ならイっているはずの強烈な快感を与えられながらそれを封じられるのは、気が狂いそうなほどにもどかしく、異常なほどに気持ちよかった。イく寸前の気持ちよさがどこまでも続いて、しかもそれは青天井でどんどん蓄積され深くなっていく。
 あたるはふっと笑って、面堂のものから手を離して面堂の腰をぐっとつかむ。その感覚に面堂ははっとして、必死になって訴えた。
「やっ、諸星…っ、いまは、いまはだめだから…っ」
「ばぁ〜か、今やらなくてどーすんだよ!」
 あたるはぺろっと唇を舐め、先端をそこに据える。そこがふれあった瞬間、体の芯からゾクッと震えが走って面堂はたまらずシーツをぎゅっと握りしめた。
「うあ……ッ♡♡」
「いくぞ」
「っあ、待っ……!」
 止める間もなかった。ぐぐ……とそこに力が込められ、それがある一点を超えた瞬間、ずぷ、と中に入ってくる。
「ひぃン……ッ♡♡」
 ひくっと喉が引きつって、情けない声がこぼれてしまう。だが止めようがなかった。イく直前のゾワゾワした快感が、腰のあたりを包み込んでいる。
「うぁああ、諸星ぃ…ッ♡♡♡」
 こんな拷問のような快感に耐えられなくて、腰を逃したいのに、もがいても腰はガッチリとすでにあたるに掴まれてしまっている。
 あたるは意地悪く笑った。
「まだ先っぽ挿れただけだろ、シャキッとしろよ」 
「っひ、ぅう〜〜〜…ッ♡♡」
「そろそろ動くぞ」
「やっ、そんな……、ひ、やああぁ…ッ♡♡♡」
 指とは比べ物にならない質量が、ぬぷぷ……と奥に向かって動く。少しずつ中に押し入ろうと小刻みに動かされる動きが、ぞくぞくするような快感を腰にもたらしていた。
「あ、ぁ、これだめっ、やだ、おかしくなる…っ♡」
 許容量を超えた深い快感が押し寄せてきて、面堂は身震いする。もうこんなの耐えられない、と思うのに、あたるは面堂を休ませないばかりか、どんどん奥へ奥へと進んで面堂を追い詰めていく。そのうちに指では届かなかった奥の方をぐいっとこすられて、びくんと身体がこわばった。
「うあっあ、そこ、やだっそこだめだからぁ…っ♡」
「おまえはほんとココがよわいな」
「ぅあ〜〜〜っ♡♡ ああ〜〜〜ッッ♡♡♡」
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、あたるは何度も何度もそこを突き上げてくる。そのたびに腰の奥が苦しいほどに疼いて、もうイってしまうと思うのに、身体はイく直前の状態のままそこから動く気配がない。
「やぁああ……ッ♡♡」
「いくらきもちいいことされても、最後までイけないのってつらいよなあ、面堂」
 あたるは心の底から楽しそうにニコニコと笑いながら、面堂の顎をくすぐった。
「イかせてほしいっておねだりできたらコッチの暗示はといてやってもいいが……ど〜する?」
 面堂は意地になってあたるの手を振り払った。
「き、きさまなんぞに屈するくらいなら……このままで構わん!」
 そう言い切った途端、またしてもゾクゾク……と背筋に鳥肌が立った。面堂は焦ったが、いくら頭で止めようと思っても身体の感覚は止まらなかった。波が押し寄せるように、快感が一気にせり上がって全身を飲み込んでいく。
「ひっ、ぁあああ〜〜…ッ♡♡♡」
「あ〜あ、心にも無いこと言うから……」
「もっやだ、これもう抜いて、抜いてくれ、諸星…っ♡♡」
「ここまできて誰が抜くかってんだよ、あほ」
 あたるは意地悪く笑って、かえって奥の弱いところを突き上げてくる。
「ぅああぁあ、やだっ、イく、これイく…っ♡♡」
 ぞわぞわと快感の波が再び襲いかかった。だが、どんなに気持ちよくなっても、面堂の身体は一線を越えることなく、ぐるぐると熱だけがこもって身体の中を滞留し続けている。
「っふあぁ……♡♡ ぁ、なんで、イけないんだ……っ」
「だからさ〜、おれがいいって言うまでイけないんだって、おまえは」
「ううぅ〜〜……♡♡」
「おれなんぞに屈するくらいなら、このままで構わないんだっけ?」
「ッ…そのとおり…だっ…♡」
 そう答えるが早いか、また凶悪な快感が身体から溢れ出して、面堂は仰け反ってぞくぞくと身体を震えさせる。
「〜〜〜っ、くあぁあ…♡♡♡」
「おまえのカラダはそうは思ってないみたいだな〜?」
「ッく、そ……♡♡」
「イきたいのにイけなくて、なのにカラダの感度ばっかり上がっていって……たいへんだな〜、面堂?」
「この…っ、なにもかも、きさまのせいだろ〜が…っ」
「おまえが素直になれば、ぜ〜んぶ解決すると思うのだが……」
 どうする?と言うように、あたるはいたずらっぽい目つきで面堂を見下ろした。
 たった一言を口にすれば、この終わらない責苦から解放されるとわかっている。だがそれでも、面堂は顔を背けて言った。
「いや、だっ、きさまの軍門になんか……っだれが…っ」
「そ〜か! じゃあ、まだまだ頑張れよ〜」
「んぐぅ……っ!?♡♡」
 ずん、と奥深くを強く突き上げられ、一瞬息が詰まる。そこから一気に溢れる快感の波に、面堂は仰け反ってシーツをぎゅうっと握りしめた。
「〜〜〜〜ッ…♡♡♡」
 声も出ないほどの深い快感、しかしけっして頂点には届かない快感は、もどかしくて苦しくて、なのにどうしようもなく気持ちよくて、その相反する感覚が面堂の理性を壊し始めていた。
「はぁー♡ はぁー……♡」
「イきたくてたまんないって顔してるな」
「だまれ…ッ、こんなの、だれのせいだと……!」
「さあ〜? 素直になれない誰かさんの自業自得じゃないのか?」
「き、きさま〜…ッ」 
 涙に潤んだ目で強く睨みつけても、あたるは楽しそうな笑顔を崩さない。それどころか、かえって面堂の弱い奥の部分にぬりゅぬりゅと先端を押し付けてくる。
「やっ、諸星…ッ、そこ、ほんとうに、だめだから…ッ♡♡」
「うんうん、きもちいいよな、ここ」
「ふあぁぁ……ッ♡♡」
 それからも、あたるは面堂の身体をねっとりと責め続けた。あるときは奥の方、あるときは浅いところを、緩急と強弱をつけながら貪っていく。
 あたるに中を突かれるのは、本当に本当に気持ちよかった。だからこそイけないのが苦しくて、甘くとろけるような深い快感が拷問のように感じられた。