Let Me In (サンプル)

 あたると一線を越えた関係になってから、不思議とあたると二人で過ごす時間が増えた。あたるがよく面堂邸に顔を出すようになったのである。

 その理由は様々で、更に言うなら大抵は愚にもつかない小さな理由だった。

「腹減ったからなんか食わせろ」

「宿題わからんから見せろ」

「家だと静かに読めんから場所貸せ」

 あたるはそういう言葉だけを手土産に、なんの連絡もなしに面堂の部屋を訪れた。そして面堂が「ここに居て良い」とも言わないうちにずかずかと入り込むと、勝手知ったる他人の部屋とばかりに好きなようにくつろいでいく。

 はじめのうちは面堂も「相変わらず自分勝手な男だな」と感じるだけでなんとも思っていなかった。だが、こういうことが何度となく重なるにつれて、ふとこんな考えが頭を掠めた。

 もしかするとあたるの口にする理由は建前で、本当は二人きりになりたいということなのかもしれない。

 面堂は思い付いてすぐにその考えを捨てた。あたるにそんな殊勝なことを考える繊細さがあるとは面堂にはどうしても思えなかった。あたるの言葉に深い意味はない、そのまま字面通りに受け止めるのが正しいだろう。

 それに、たとえあたるがどういうつもりだろうと、結果として二人だけで時間を過ごすことには変わりはない。そしてその時間は、面堂としても嫌いではなかった。

 二人きりの時間は、たいていの場合静かだった。面堂がソファに座って本のページを繰る。あたるがベッドで寝転びながら雑誌のクロスワードを埋めて遊んでいる。そんなふうに、お互いの方には視線一つくれずに各々自分のしたいことをして過ごしているだけなのだ。なのに、この空間、この時間が心地よくて、あたるが帰る時間にならなければいいのに、と面堂は時折思った。もちろんあたるには死んでも言うつもりはない。

 今日のあたるが持ち出してきた理由は「でかいテレビで映画をみたい」というものだった。

 映画そのものはメガネから借りたそうで、明日には返すつもりと言うことだった。今回もいつもどおり勝手にずかずかと部屋に入ってきて、面堂に断りも入れず再生機器にそれを突っ込んで勝手に見始めたというわけである。

 タイトルをみて初めて気付いたが、あたるが見ようとしているのは少し前に話題になったミステリ映画だった。あたるがこういう映画に興味を示すというのは、面堂にはずいぶん意外なことに感じた。なにしろアホという言葉を世界で最も的確に体現していると言っても過言ではない男である。追いかけている女の子に話題を合わせるためなのだろうか。だが、そう言い切るにはずいぶん真剣に見ているようだった。

 面堂自身はもうこの映画を見たことがあったので、読みさしの本の続きを読むことにした。あたるも別に面堂と一緒にこの映画を見たいというわけでもないようなので、面堂があたるに抱きしめられたまま本をパラパラとめくっていても何も言わないで画面を見つめたままだ。

 あたるが映画を見始めて少ししたときだった。する、と面堂の紺色のポロシャツの上をあたるの手がなぞった。指はそのまま上っていって、面堂の胸に触れる。

(またか……)

 面堂は気付かれぬようにそっとため息を吐いて、またページを繰った。こうして触れている割には、あたるは完全にテレビに集中していて、面堂には注意を向けていない。おそらく手癖になっていて、あたる自身は無意識に触っているのだ。

 更に言うならセックスのときでもないのにあたるが面堂の乳首を触るのは、実のところこれが初めてではなかった。ここ最近は、二人きりでテレビを見ているときなどは、いつもこの調子だ。

正直、あたるはなにが面白くてそこを弄るのか、面堂にはまったく理解できなかった。あたるにも言ったように、面堂はそこに触れられたところで何も感じない。おまけに女のように触っていて心地よいやわらかな乳房があるわけでもなければ、行為を彩るような艶っぽい反応をできるわけでもない、全くの無である。そして、何も感じないが故にわざわざ話し合うのも面倒で、何も言わずにあたるの好きにさせていた。

 だから今日もいつも通り無視するつもりだったが、この前のことがふと頭をよぎった。次の日には元通りになっていたので、結果として何もなかったが、一時的になんだか身体がおかしなことになったのは事実である。

 こんなところ弄られても何も感じないのは間違いないのだが、いい加減注意した方がいいのかもしれない。

 面堂は、本をぱたんと閉じてあたるの方に少し顔を向けた。

「それ、いい加減やめないか?」

「なにが?」

「だから……、そんなところ、さわっても面白くないだろう……」

 あたるはきょとんとして固まった。面堂がなんの話をしているのかわからなかったらしい。だが、すぐに自分の手に目を向けて「あ〜、これ?」と呟いた。

「なんだ、もしかして乳首感じるようになった?」

 そして悪びれるわけでもなく、へらへら笑いながら趣味の悪い冗談を口にする。

「アホかっ! ぼくはおとこだぞ!!」

「ま〜その点はおれもよく知っとるが」

 面堂は、話が逸れていかないうちにあたるの手をとんとんと指でたたいてみせた。

「とにかく、いい加減やめたらどうなんだ、それ!」

「でも、おれがそこ触っても何も感じないんだろ?」

「当然だ!」

「ならば、別におれが何しよ〜がおまえにはなんの影響もなかろう」

「……それは、まあ、そうだが」

「なんだよ、文句があるってことはやっぱりちくび……」

「感じないと言っとろうが!!」

 噛みつくように言い返すと、あたるはおかしそうに笑った。そして、またのんびり映画を見ながら元のように面堂の胸を触り始めた。結局、何もかも元に戻ってしまったわけだ。面堂は長いため息をついた。

 まあ、近いうちにそのうち飽きるに決まっている。こんなくだらないことであたると言い争う方が馬鹿馬鹿しいだろう。

 面堂も先ほどと同じように手元の本を開くと、続きをゆっくりと読み始めた。

 それから、三十分ほど経った頃だろうか。

(……ん?)

 ぞく、と身体に妙な違和感を覚えた。ページをめくろうとした面堂の指先の動きも止まる。感じたことのないタイプの感覚で、面堂は少し戸惑いながらそれに意識を向けた。その矢先、またぞわりとかすかな悪寒が走る。

(あ……? なんだ?)

 これが何であるにしろ、あたるの指の動きと連動していることは間違いなかった。要するに、あたるに乳首を触られると身体がかすかに反応している。

 ここ最近、たしかにあたるに抱かれるときは毎回乳首をしつこくいじくり回されていた。もしかすると、身体が勝手に、セックスのときの感覚を思い出しているのではないだろうか……。

 面堂は、そこまで考えてから即座にその考えを打ち消した。

 どれだけ好きに弄られようと、面堂は男なのだ。こんなところで感じるわけがない。必要以上に気にするから、そういう錯覚が起きるのだ。面堂はそこに意識を傾けるのをやめて、本の内容にしっかりと集中するように努めた。実際それはうまくいって、面堂の心はすぐに本の中にさまよいこんで、現実から離れていった。

 そこからさらに何事もなく三十分ほど経過した頃に、面堂は不意に気がついた。

 なんだか、身体が熱い気がする。

 そう思ったと同時に、依然としてそこを好きに弄っているあたるの指が乳首をくにっと押しつぶした。その瞬間ぞくりと快感が走ってぴくっと肩が跳ねる。面堂は思わず固まった。

 ――もしかすると、これは……まずいかもしれない……。

 下手に本に集中していたせいで、自身の変化に気付くのが遅れたようだった。いつのまにか、さっきよりも明らかに強い悪寒が時折身体を駆け抜けるようになっていた。

 あたるの指がすりすりと服の上から優しくこすり、時折指で挟んでくっと力を込める。そのたびに、面堂の身体はいやになるくらい従順に反応してぴくんとした。その動きはかすかなものではあっても、この距離ではいつ気付かれてもおかしくなかった。面堂は本のページをめくるのも忘れて、ひたすらその感覚に耐え、自身の反応をできるだけ抑え続けた。

(どうしよう……たって、きた)

 さっさと映画が終わってくれればいいのに、と面堂は思った。

 適当になにか理由をつけて中座しようかとも思ったが、下手にこちらに注意を引いてあたるに自分の状態を気付かれたらと思うとなかなか踏ん切りがつかない。

 あちらにそういう意図がないのに性欲を刺激されてしまった。そんなことをよりにもよってあたるに知られるなんて、面堂のプライドがどうしても許さなかった。

 だが、どんなに考えまいとしても、面堂の思考は自然と胸に与えられる快感に向いていった。気持ちよくなってしまうほどに、あたるとのセックスの記憶が脳裏によみがえってくる。

 ――面堂……。

 身体を重ねているとき、それも、性的興奮が高まっているときにしか聴けない、欲にまみれた甘い声色。吐息混じりのそれが耳許で囁かれると、面堂はいつもくらくらするほど興奮した。

「…っ…、ふ……」

 そんなこと、今は思い出したくなんかない。なのに、あたるの指がそうさせてくれなくて、つままれるたびにぞくぞくしてしまう。

 熱に浮かされた思考はしきりに一つの思いを紡ぎ出すが、面堂はそのたびに必死にそれを頭から追い払った。だが、何度かき消しても、その考えは面堂の頭から離れなくて、たまらず面堂はぎゅっと目を瞑る。

 いますぐあの声で名前を呼んでほしい、なんて、あたる本人には絶対に言うつもりはなかった。

(ぁ……くそ、こんなの、いつまで……っ)

 かたかたと震える指先は、ついに本を支え持つこともできなくなった。文庫本がするりと面堂の手から滑り落ちていく。

 ばさ、と思いの外大きな音がした。音を立てた面堂自身も思わずぎょっとして固まるほどだった。

 あたるはそこで少し驚いたように手を止めた。ここではじめて面堂の存在を思い出したらしい。映画からこちらに目を向けて、小さく首をかしげる。

「ど〜したのだ、面堂?」

「っ、何も……」

 反射的にそう返したが、その声には面堂自身もまずいと感じるほど動揺がにじみ出ていた。面堂は慌てて言い直した。

「なんでもない!」

 今度はしっかりと動揺を抑えたいつもの声色を出せたが、やはり遅かった。声にまじった微かな焦りを、あたるはしっかり聞き取ってしまった。

「あ。もしかして、気持ちよくなっちゃった?」

 面堂は思わずぎくりとするが、それをおくびにも出さずにすぐに言い返した。

「そんなわけあるかっ! 馬鹿も休み休み言え」

 だが、あたるは売られた喧嘩を買おうとせずに、どこか含みを感じさせるような、意地の悪い笑みを浮かべる。

「いやはや、おまえが本落とすなんてよっぽどだよな」

「っ、いい加減にしろ、きさまのたわ言にはつきあってられん!」

「ま〜待て、逃げるな逃げるな」

「うわっ」

 咄嗟に立ち上がろうとした面堂の腕を掴むと、あたるは面堂を素早く引き戻した。また元のように身体に腕を回して押さえ込まれ、面堂はもがいた。

「こらっ、はなせ諸星!」

「おまえ、腰抜けてるだろ今」

「だったら何だっ!」

「開き直っとる」

 あたるの手のひらがお腹から徐々に上に滑っていく。指先がそこに触れた瞬間ぞわりと悪寒が背筋に走った。

「やっ……」

「ほんとだ。固くなってる……そんなに感じてたのか」

 乳首をくにくにと圧迫されると、身体からふにゃりと力が抜けて動けなくなる。そのまま身体を撫で回され、ぞわぞわとした感覚が神経を這い上ってきてまた変な気分になってきた。

 このままだと更にまずいことになると面堂はその瞬間悟った。

「ちょっと待て。あれを見ろ!」

「ん?」

 面堂は、咄嗟にテレビの方を指さした。

「映画! まだ終わってないだろう」

「あ〜いいよもう、種明かししか残ってないし」そう言ってあたるは肩をすくめた。

「どーせ犯人あいつだろ」

 そこであたるが迷いなく口にした名前を聞いて面堂は少し驚いた。確かにそれは真犯人の名前だった。

「へえ……よくわかったな、アホのくせに」

「アホは余計じゃ!」

「本当のことを言って何が悪いのだ!」

「あのなあ……おまえ、自分の置かれた状況ほんとにわかっとんのか?」

 あたるは声を低めてそう言うと、また乳首をすりすりとなでた。

「っう……」

 円を描くように、あたるは人差し指の先で乳首の周囲をシャツの上からゆっくりとさすっている。布越しに弱い力で与えられる間接的な刺激がもどかしいほどの甘い快感を生み出して、面堂は小さく体を震わせた。

「っ、その触り方、やめろ……」

 面堂が震える声で言うと、あたるが耳許で笑い混じりにささやいた。

「なんで? 直接さわって欲しくなるから?」

「……っ」

 面堂は思わず言葉に詰まった。どう言い返せばいいか考えているうちに、あたるの手が面堂のシャツの端を掴んで無遠慮にまくりあげていく。

「っ、諸星……!」

「あ〜、乳首赤くなってんな」

 あたるは面堂の乳首にそっと触れる。確かにあたるの言うとおり、面堂の乳首は一時間以上に渡って延々と弄り倒されたせいで、充血して血の色に近付いていた。

 面堂はかあっと頬が熱くなるのを感じた。

「おまえは肌白いからこ~いうのよく目立つよな」

「それは悪かったな!」

「いや〜これ褒めてるんだけどな〜?」

 馬鹿にしているとしか思えない軽い口調でそう言うと、あたるは中指と親指で立ち上がった乳首を軽くつまんだ。そうされたまま先の方を人差し指で優しく刺激されて、面堂は思わず息をのむ。ひとしきりそうして撫でた後、あたるが指を立てて先端にぎゅっと爪を押し込んだ瞬間、露骨なまでに身体がビクッと跳ね上がった。

「うあっ……!」

「あれ、いまのよかった? おまえ割と痛いの好きなんだな」

「ちっ、違……あっ、ぁ…!」

 ぐりぐり無遠慮に爪の先が食い込んでくる。面堂としてもこの責め方は痛みのほうが強いと感じていたが、どういうわけか身体がぞくぞくして熱くなってくる。こんなの絶対に気持ちいいはずないのに、声が勝手にこぼれて止まらない。

 ここまで来ると、さすがの面堂もそろそろ現実を認めざるを得なかった。

 こうして乳首をさわられるのは、なんともいえず気持ちがいい。

本当に、つい最近までこんなところを触られたって何も感じなかったのだ。あたるがしょっちゅういじり回して遊んでさえいなければ、今でもそうだったに違いない。もっと早くにやめさせておけばよかった。面堂は自身の迂闊さを呪った。

 だが、後悔する余裕さえも今のあたるは面堂に与える気がないらしい。面堂が何か違うことを考えていることに気付いたのか、また触り方を変えてきた。いったん指を離した後、ぴんと尖った乳首の側面を爪の先でくすぐるようにしきりにこすりあげてくる。表面をそうして優しく引っかかれていると、ぞくぞくと鳥肌が立つような痺れが胸のあたりに生まれてきた。

「やっ、へんな触り方するな…!」

「なるほど、カリカリされるのも好き、と」

「誰もそんなことは言ってな……っあ、この、やめんか本当に…!!」

 面堂がいくら言っても、あたるはただ聞き流すだけで、指の動きを緩めることはなかった。とんとんと先を叩くように押されて、面堂は小さく身をよじる。

「っ、ふっ、うあ……っ」

「乳首きもちよさそ〜だな〜、面堂」

 乳首をつままれたりひっかかれたり、散々好き放題弄ばれているうちに、下腹部の奥に切ないような熱いような、曰く言い難い快感が生まれて、それが段々と無視できない大きさになってきていた。最初は、自分が射精しそうになっているのだと思った。だが、その感覚が強まるにつれて、それが向かう最終地点はおそらく射精ではないと気づいた。この甘い痺れは男性器ではなく下腹部の奥をきゅんきゅんと締め上げている。面堂はおびえた。

「っひ、やだ、なんか、違う……」

「へえ〜? なに、ど〜ちがうの?」

 からかい混じりの少し低い声で、あたるが訊ねた。

「あっあ、いき、そ、だけど…うあ、これ、へんだ、やだ…っ」

 このままだとなにか得体のしれない感覚が全身を襲うだろうという直感があった。面堂はそれを本能的に恐れた。面堂がぎゅっと握った拳を、あたるはするりとなでる。

「な〜にを我慢しとんじゃ、おまえらしくもない」

 面堂はあたるの手を乱暴に振り払った。

「きさまの思い通りになんぞ絶対になるものか……!!」

「ほんっと、強情だな」

「ふ…、おまえにだけは…っく、言われたくない!」

 なんと言われようとこの際関係ない。こんな貧乏人に良いようにされて恥ずかしいところを晒すなんて、面堂家の次期当主としてのプライドがどうしても許さないのだ。

「ふっ、いつまでそう言えるか見ものだな~?」

 あたるはあくまで軽い調子で面堂をからかい続ける。だが、その声には徐々に隠しきれない熱がこもり始めていた。

 ぴったりと密着しているときに相手の反応がわかるのは何もあたるだけではない、面堂もあたるの変化には嫌でも気付いていた。すっかり形を持った固いものがぐぐっと張り出して、面堂の尻を押している。面堂の身体をこうして弄んでいるうちにあたるの方もその気になってきているのだ。布越しにぐいっと腰を押し付けられて面堂はぞくぞくと身を震わせる。つくづく卑怯な男だ、と面堂は思った。セックスと同じ体勢で、セックスと同じように触られて、耳許で甘く囁かれたら、どんなに抵抗しようと身体は陥落するに決まっている。

「きもちいいなら、イっちゃえば?」

 それでも面堂は、あくまで誘惑を退け続けた。

「っ、だめ、いやだ、ことわる、拒否する……っ」

「おまえさ〜、こんなときまでそ〜ゆ〜意地張って、生きてて疲れね~の?」

「よけいなお世話だっ!」

 面堂は肩越しに背後のあたるを睨みつける。

「そもそも、おまえがおかしな真似をしなければ済む話だろ~が!」

「そお?」

 あたるはからかうように面堂の耳をくわえた。

「それ言うんだったら、おまえが乳首イジメられてえっちな気分になんかなるからいけないんじゃね?」

「この期に及んでぼくのせいだとほざくのか、きさまはっ!!」

「だってそ~だろ、おまえが気持ちよくなっちゃうのはおまえの責任だもんね」

 あたるはいけしゃあしゃあと言い切った。元はと言えば誰のせいでこんなところで気持ちよくなる羽目になったと思っているのか。面堂は心底腹が立った。

 だが、今はそんなことを詰める余裕はない。

 ぴくん、ぴくんと、太腿の筋肉が勝手に跳ねている。甘い熱が身体の中をぐるぐる巡って、いよいよおかしくなってきているのを肌で感じた。面堂はうまく力の入らない腕を持ち上げて、あたるの手に触れながら必死に訴えた。

「っあ…、これ以上、は、ほんとに、やめろ…」

「ダメ、やだ、ことわる、拒否する〜」

「お、おのれは〜…!!」

 あたるはいっさい責めを緩めないまま、心底楽しそうな忍び笑いをこぼす。

 そして、追い打ちをかけるように面堂の乳首をぎゅーっとつねった。

「面堂、い〜から素直にイっちまえ」

「……〜〜ッ!」

 その瞬間、紙一重のところで堪え忍んでいた均衡が崩れた。体の奥がひときわ強くどくんと脈打つ。

 だめだ、もう、イく。