Fiasco(サンプル)
夏の残暑もようやく過ぎ去り、衣替えの季節がやってきた。窓から差していた痛いほどの陽光もずいぶんとやわらいで、木々は少しずつ葉の色を変え、赤や黄色に染まり始めている。そして今は授業も一通り終わって、掃除の時間になっていた。面堂は教室の担当で、今はみんなで生徒たちの机を教室の後ろ側へと運んで掃き掃除の準備をしているところだった。
教室の片側を空けたところで、女の子たちが掃除ロッカーを開けて各々箒を手にしていく。そのうちの一人の女の子が、隅に集まっている男子たちを見て、箒の先をとんっと床に軽く叩きつけた。
「も〜、諸星くんたちまたサボってるじゃない!」
「またぁ? いっつもあたしたちばっかり真面目にやって、ばかみたいね〜!」
面堂は運んでいた机を寄せ終わると、すかさず彼女たちに話しかけた。
「まったく、どうしようもない連中ですね。ぼくが注意してきましょう」
「ほんと? ありがとう、面堂さん!」
「いえいえ」
面堂がにっこり微笑みかけると、女の子たちはすっかり機嫌を直して掃除を再開し始める。背中越しに聞こえた「面堂さんってやっぱりステキ」という言葉に面堂はほくそ笑み、また一段と自分の評価が上がったことに満足しながら教室の隅へと向かう。
あたると数名の男子は、一つの机を囲んで屈みこみ、顔を寄せてぼそぼそと何か話し合っていた。
「ほうほう、それで?」
「最後はめちゃくちゃよかったってよ、そいつの話では」
「ま〜〜でも、試す気にはならんわな〜」
「それな」
「ぜってー最後まで耐えきれね〜って、普通は」
「あいつそのへん普通じゃないから」
「おい、きみたち!」
面堂が声をかけると、こちらに背を向けていたあたるがぎくっと振り返る。そして、声の主が先生ではないことを確認して肩から力を抜いた。
「なんだ、面堂か」
「なんだじゃない、今は掃除の時間だぞ。いったい何を……」
と言いかけて、あたるの手の内にある雑誌に目が行った。なんのことはない、いつものように大きな声では内容を言えないシロモノを白昼堂々鑑賞していたようである。見開きいっぱいに、長く肉感的な脚を悩ましくのばした金髪のお姉さんが、画面のこちら側に向かって微笑んでいた。
「で、面堂。おれたちに何か用か?」
「あ」
はっとして雑誌から視線を外すと、面堂はこほんと咳払いをして真面目な顔をする。
「まったく、掃除もせずに何をしているかと思えば……。美しい女の人たちに掃除を押し付けておいて、自分たちはそんないかがわしいモノにうつつを抜かしているとは。恥ずかしいとは思わんのか!」
するとあたるが、フンと鼻を鳴らして面堂をじとりと睨んだ。
「ま~たそうやって一人でいい子ぶりやがって。ど~せきさまもこのねーちゃんの脚がたまらんとか思っとるくせに!」
「な、何を根拠に!」
「さっきいやらしぃ~目つきで雑誌を覗いとったの、気のせいとは言わせんぞ!」
「そ~だそ~だ! おまえだって見てたくせに!」
「面堂のえっち!」
「き、きさまら~……!」
なんと言い返そうか悩んでいると、花瓶の水を変えて戻ってきていた女子生徒がどうも話を聞いていたらしい。二人は手を取り合って悲しげな顔で面堂を見る。
「え~っ、面堂さんが?」
「ショック~」
「ち、違いますよ、それは諸星たちの言いがかりで……!」
慌てて弁解しようとする面堂に向かって、あたるはぴっと指を突き付けた。
「言いがかりっちゅ~わりには、ずいぶんと真剣な顔で見とったではないか!」
「ええい、きさまは黙っとれ!」
このままでは分が悪い。面堂は近くの机の上に腰掛けながら、咄嗟に話の矛先をよそに向けた。
「だ、だいたい、もうすぐ中間テストだろうが。勉強もせずにそんなことばかりしているから、いつまでもアホが治らんのだろう!」
「ふん!」
ぱたんと雑誌を閉じて、あたるはそっぽを向く。
「おれだってな〜、いざとなりゃ〜定期テストの一つや二つかる〜くこなしてみせるっつ〜の!」
「ふっ、できもしないことを!」
「やってみなきゃわかんね〜だろ、そんなの!」
面堂は、腕を組んで聞えよがしに鼻で笑った。その馬鹿にしきった態度にあたるの顔色が変わり、あたるは雑誌を机に置くとずかずか面堂に近づいて、挑むような目で面堂を見据えた。
「じゃ~何か? もしおれがほんとに赤点一個も取らなかったらど~してくれるんじゃ、おのれは!」
教室のスピーカーから、掃除終了を告げるチャイムが鳴り響く。だが、面堂の頭からは今までが掃除の時間であったことも、そもそも女の子たちのためにあたるを注意しに来たことも吹き飛んでしまっていた。
面堂はあたるを見上げ、せせら笑いとともに答えた。
「そうだなあ……そんな奇跡が起きようものなら、きみの言うことをなんでも一つ聞いてやろうではないか!」
「お~お~、言ったなぁ!? その言葉忘れんなよ! ぜって〜後悔させちゃるからな!」
「できるものなら、ぜひさせてほしいところだな……」
あたるはずいっと面堂に顔を近づけて、なおも念を押した。
「い〜か、おれが勝ったらほんとに絶対必ず言うこと聞けよ! おれが何を言っても文句言わずに従えよ!」
「しつこいやつだなきみも。ま、せいぜい頑張ることだな」
面堂が冷ややかな微笑みをつけて答えると、あたるは「覚えてやがれ!」と言い捨てて席に戻っていく。
ちょうどそのとき掃除の担当場所から教室に戻ってきたメガネが、尋常ならざる様子のあたるに目を留め、近づいてあたるの机に寄りかかった。
「なんだあたる、何を時代劇の悪役みたいな捨て台詞を吐いておるのだ」
「失敬な! ヤツに念を押しとっただけじゃ!」
「いや、あれはど〜聞いても三下の捨て台詞だって」
そう言って、メガネと一緒に戻ってきていたコースケも笑った。
「ふんっ、よってたかって人のことバカにしおってからに!」
あたるはむすっと頬を膨らませながら、机に頬杖をついた。
「で、あたる、おまえ結局面堂と何を揉めとったんだ?」
あたるが渋い顔をしたまま事のあらましを説明すると、すぐにあたるの席の近くにいた全員が「はぁ〜!?」と大声をあげた。
「無理に決まっとるだろうがそんなの!」
「結果が見え透いていて賭けにもならん」
「おいこらメガネ、おまえどっちの味方なんじゃ!」
「んなこと言ったって、こんなの一目瞭然!」
「傍目八目!」
「おまえらなぁ〜〜〜!!」
あたるはガタッと立ち上がったところで、コースケたちは揃って大笑いする。相変わらず騒がしい連中である。
一部始終を見ていた二人組の女の子が、笑いながら面堂に話しかけた。
「でも面堂さん、ほんとに諸星くんがテスト頑張っちゃったらどーするの?」
「諸星くんのことだから、結構ろくでもないこと言いそうよね」
「たしかに!」
二人は手を合わせて楽しそうに笑っている。面堂もそんな彼女たちにつられて微笑み、それから両手を腰に当てて高らかに言い切った。
「ご心配なく。ぼくは諸星のアホのことをよくわかっています、そんなことは天地が裂けてもありえないと断言しますよ!」
それもそうね、と彼女たちは鈴を転がすようにまた笑った。
視線を感じて、面堂はふと横を向いた。
視線の主はあたるだった。今の話を聞いていたらしく、机に肘を付きながらむすっと不機嫌な目つきで面堂を睨んでいた。目が合った瞬間、あたるはびーっと舌を出してそっぽを向く。またそうやって子どもみたいに、と面堂は少し呆れた。だが実際ありえないに決まっているのだから、怒られる筋合いはないのだ。
これきりあたるはその賭けのことを口に出すことはなかったし、面堂のほうもわざわざ触れることもなかった。
何度決闘を持ちかけても、約束の時間になると綺麗サッパリそのことを忘れ去ってすっぽかし、面堂が怒ってもヘラヘラ笑うばかりの男なのだ。今回も言うだけ言っておしまいなのだと面堂は思っていた。
だから、中間テストが始まる頃には面堂はそのことをすっかり忘れ去っていた。
それからまた日々は過ぎ、中間テストの答案が生徒の手もとに返されるときがやってきた。
「すご〜い! 面堂くん、満点ばっかりね〜!」
「さすがだわ〜」
「大したことではありませんよ。ただ、ちょっと勉強が得意なだけで……」
にこやかに微笑みながら面堂は女生徒達の輝く視線を一身に浴びていた。勉学に励むのは面堂家の跡取りとしての義務だと考えているし、そうでなくても勉強は好きだった。だが、一番楽しい瞬間はこうしてかわいい女の子たちから尊敬の眼差しで見つめられる瞬間なのである。
「謙遜もここまで来るとイヤミだな〜」
「名前書き忘れて0点でも取りゃいいのに!」
そして、男どものこういうしみったれた負け惜しみを聞くのも負けず劣らず痛快だった。面堂は悠然と櫛で前髪を整える。
「ふん、そんなバカな真似をするやつ、いても諸星くらいのものだろうな」
こうしてテストのたびに簡単に注目を集め、ちやほや褒めそやされることができる。定期テストは、面堂にとっては実にいい気分になれる楽しい行事だった。
だが、今日に限っては、二年四組の様子がいつもとどこか違っていると気づくのに、長くはかからなかった。
「えーっまさかぁ、うそでしょ〜!?」
教室の別の一角から聞こえてきた女の子の声に、面堂は反射的に顔を向ける。
「雪でも降るんじゃない〜?」
「隕石落ちてくるかもね!」
わいわいと騒ぐ声に、面堂の周りにいる女の子たちも同じようにそちらを向いて首を傾げた。女の子たちは顔を合わせてから、一様にその集団に向かっていく。
「ねーなになに、ど〜したの?」
「なにがあったの〜?」
「あ、ちょっと……」
気が付けば、面堂はその場に一人ぽつんと残されていた。
そしてこのとき初めて気がついた。なんだか知らないが、教室の反対側に人だかりができていて、ちょっとした騒ぎになっているようだった。
(せっかくテストで良い点をとったのに、これでは意味がないではないか……)
何が起きているにしろ、面堂にとっては決して面白くはない事態だった。
女の子の囲いを失った面堂を、打って変わってにこにこ笑いながら眺めている男連中の間を抜け、面堂も不機嫌な表情を隠さずにすたすたと彼女たちと同じ方に向かった。
ひとまず輪の外縁に近づいて人だかりの肩越しに中心を見やる。そこにいたのは、なんとあたるだった。机の上にだらしなく座って、得意げな顔でへらへらしている。面堂は、とりあえず近くにいたコースケに声をかけた。
「いったいなんの騒ぎなんだ?」
「いやそれがさあ――」
だが、コースケが喋る前に輪の中心からメガネの素っ頓狂な叫び声が上がった。
「なにぃ!? あたるが一個も赤点とらなかったってぇ!!?」
それに続いて、男子生徒たちがざわついた。
「ありえん! この学校一のアホと言っても過言ではないあたるが!? ありえん!」
「あたる、ど〜やってそんなに上手にカンニングしたんだ? やり方教えてくれよ!」
「やかましいっ! 実力じゃ実力っ!!」
コースケが面堂に顔を向け、肩を軽くすくめて苦笑いを浮かべる。
「……と、ゆ〜わけなのだ!」
「ど〜りで教室が騒がしいわけだな……」
面堂もしみじみとつぶやいた。あたるの普段の授業態度や、放課後商店街をほっつき歩いて女の子を追いかけまわしている様子を思えば当然の反応である。
そのときあたるが、面堂が自分の近くまで来ていることに気付いた。あたるは面堂のほうに手をついて身を乗り出すと、どこか含みのある笑みを浮かべる。
「お、面堂ではないか。おまえ、おれになにか言うことがありそ〜だなあ?」
面堂は人だかりを割って中心まで入っていき、ごく真剣な顔でじっとあたるを見つめて言った。
「諸星、犯した罪の自主的な告白は多少なりとも罪の重さをやわらげ――」
「だからやっとらんちゅ~とろ~が!」
「嘘をつくなっ!! カンニング以外にきさまが赤点を回避するなどできるわけがないだろ〜が!!」
「おのれは~~!!」
「きさまのような不逞の輩こそ学生生活の諸悪の根源! こうなったら徹底的に追及して、友引高校影の生活指導部のぼく直々に天誅をくだしてやる!」
「ほんっと~に話の分からんやっちゃな~!!」
刀を抜き放ち、いつものように白刃取りするあたるの手にぎりぎりと押し込んでいると、横からひょこっとラムが顔を出した。
「終太郎、待つっちゃ。ダーリン、今回はちゃんと勉強してたっちゃ!」
「そ〜なのよね〜。あのあたるくんが……」
「えっ……?」
思わず手を止める。なにかの冗談かと思ったが、しのぶもラムもいたって真面目な顔をしていた。
「あたし、あたるくん家に呼ばれたもの。古文わからないからって教えてくれーって」
「しのぶの家にダーリンを行かせるわけにはいかないっちゃ!」
「あたしはどっちでもいいんだけど。勉強するだけならどこでも変わらないし……」
「そお? だったら今度はぜひしのぶの部屋で~」
「ダーリンっ! 調子に乗るんじゃないっちゃ!」
「うわっ、電撃はよせ、電撃はっ!」
ぱりぱりと静電気の音を立て始めているラムに、あたるは慌てて身構えている。
面堂は、まじまじとあたるの顔を見ながら、半信半疑で口を開いた。
「まさか本当に……?」
「だぁから最初からそ〜言っとるだろ〜が!」
「いや、ちょっと待てよ……ということは……」
今になってようやく思い出した。中間テストが始まる前のあの日、あたるが何を言って、自分が何を言ったのか。
そして、自分が、この男に何を約束してしまったのか。
言葉を失い凍りつく面堂の顔を覗き込むようにして、あたるは一点の曇りもない満面の笑みを浮かべた。
「で、面堂? おれが赤点一個も取らなかったら……何だっけ?」
(以下はえっちなシーンの抜粋)
「ぁ…、もろ、ぼし…っ」
「もうイきたくてたまらないって感じ?」
認めたくはないが、そのとおりだった。早くしてほしい、という気持ちを込めてあたるを見つめる。あたるは苦笑した。
「そんな顔してもだめなもんはだめ」
ちゅ、と面堂の眦に軽くキスして、あたるはまた面堂の弱いところをかすかに力を込めてぐりっとこする。
「うあぁ…っ」
「面堂、もすこし力抜ける?」
「ぁ、な、なに…?」
あたるは面堂の太ももから中心に向かって指先を這わせた。そんな小さな刺激でも今は気持ちよくて、ぞくぞく、と腰が震える。
「んんっ……」
「このへん……足とか、腰のあたり。おれがさわってても、くたってしたままにできる?」
「……なぜ、そんなこと」
それはいささか妙な要求だった。普段ならあたるが急にそう言いだした理由をちゃんと追求したに違いなかったが、あたるがそっと持ち上げた面堂の太腿に優しくキスを落としたせいで、何かを考えることなどとてもできなくなってしまった。
「あ、ぅあっ……」
「できたら、イかせてやるよ。もういい加減イきたいだろ?」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて、あたるの唇が太腿を滑って中心へと向かっていく。その湿った柔らかな感触がどうしようもなく気持ちよくて、ふ、と近くまで来たあたるの吐息がそこにかかった瞬間身体が芯から震えてしまう。
こうなればもう選択肢などなかった。ともすればかくかくと緊張してしまいがちな足腰から、意識してふっと力を抜いていく。くたりと横たわる面堂にあたるが触れて、一瞬びくっと太腿が跳ねたが、弛緩した状態を保った。
「ちゃんとできたな」
「っ、ふ…」
「そのまま、力抜いとけよ」
「ん……ッ」
そこからあたるの手付きが変わり始めた。甘い砂糖漬けのような快感を延々と与えるのではなく、小刻みに早くなったその動きは、少しずつ面堂の快感を上へ上へと高めていく動きだった。
やっとイかせてもらえる、という期待に、胸が甘く鼓動を打って、ぞくぞくするような興奮が血液とともに体を巡り始める。くちくちといやらしい音が、湿ったそれに絡みついて感覚を支配した。
「は…、ぁ、んあ…ッ」
「そろそろイきそ?」
「ん、ん……っ」
こくこくと必死になって頷く。もう一気にイかせてくれてもいいのに、ここまで来てもあたるはまだ焦らすようなゆるやかな手付きでしか面堂のものを扱いてはくれない。目の前に迫った快楽が早く欲しくて、面堂は無意識に腰を揺らして、あたるの手に自身を押し付けていた。あたるがくすっと笑う。
「えっちな動きしちゃって……」
最後に、あたるの手のひらが先の方を包み込み、そこから全体をひねるようにしてこすりあげた。円を描くようにそこを刺激する動きと共に、身体の快感が急激に高まっていく。
「っあ、うぁ……♡」
ようやくイける――面堂が待ちかねた快感に身を委ねようとしたときだった。
射精を迎える直前で、あたるの手がぱっと面堂から離れた。
「え…なっ、あ…ッ?」
突如として刺激を失い、高まるはずの快感がふっと途中でかき消える。だが身体の反応だけはいまさら止まらなくて、ぞくぞくしながら面堂は『それ』を味わう羽目になった。全く勢いのない射精、先端からとろりと精液がこぼれるだけの射精。そこから面堂の味わった感覚はとても『絶頂』とは言い難いものだった。とくん、とくんと、心臓の鼓動に合わせてゆるゆると溢れる精液は、じんわりと甘ったるい快感をもたらしてはいる。だが、あれだけ焦らされ続けた今の面堂が待ち望んでいたのは、そんな生ぬるい快感ではなかったのだ。
「な、なんで……」
あと少しのところで満たされなかった欲を持て余し、じわりと涙を浮かべ、面堂は当惑しながらあたるに目を向ける。
あたるは実に楽しげに、にっこりと笑みを浮かべて面堂を眺めていた。
――こいつ、わざとやったな……。
面堂はあたるをきつく睨みつけた。
「おまえは相変わらず人の嫌がることに関しては天才的だな……」
「そりゃどーも!」
今日に限ってあたるが面堂をさんざん焦らし続けた理由がよくわかった。本当に、あたるのやりそうなことだ、今の今まで目論見に気づかなかった自分に腹が立つ。
だが、同時にこちらは文句を言える立場ではないこともよくわかっていた。たとえあたるがセックスの際に悪意を持ってどんなことをしてこようとも、面堂自身はそれを受け入れて何もしないというのがあたるとの約束だったからだ。
今感じているやり場のない感情が怒りなのか欲求不満なのか、もう面堂自身にも判別できなかった。どちらにしろ、身体の中をぐるぐる巡る熱はそう簡単には消えそうにない。面堂はぎゅっと自身の肩を掴んで、いまだじんじんと甘く疼いている腰の感覚からなんとか意識をそらそうとする。
するとあたるが面堂の顔の横に手をつき、覆いかぶさるようにしてかがみ込んだ。
「よし、じゃ〜とっとと二回目行こうか」
「……二回目?」
「そ〜だよ」
面堂は信じられない気持ちであたるを見上げた。
「本気で言っているのか?」
「もちろん!」
あたるはにっこり笑った。みんなの前で面堂を暗くて狭い場所に突き飛ばすときと同じ種類の微笑みである。
そして、冗談ではないという言葉通り、面堂の腰をするっと撫でてから、あたるはまたそこに手を伸ばした。あたるの手がそこに触れた瞬間、びくりと面堂の身体が跳ねる。
「っ、うあ……!」
「おまえだってまさかこれだけで終わりとは思ってなかったろ」
「それは……そうだが…っ」
「なら、とっとと覚悟決めておれに付き合えよ、面堂」
「んん…っ…」